東京地方裁判所 平成12年(ワ)6373号 判決
原告 日進乳業株式会社
右代表者代表取締役 水野光
右訴訟代理人弁護士 高山征治郎
同 亀井美智子
同 中島章智
同 高島秀行
同 石井逸郎
同 楠啓太郎
同 宮本督
同 吉田朋
同 岩本憲武
同 大村健
被告 信和ゴルフ株式会社
右代表者代表取締役 國府光雄
右訴訟代理人弁護士 今中利昭
同 村林隆一
同 浦田和栄
同 松本司
同 辻川正人
同 岩坪哲
同 酒井紀子
同 深堀知子
同 奥村徹
同 田中哲生
主文
一 被告は、原告に対し、一六〇〇万円及びこれに対する平成一二年九月二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、被告が経営するゴルフ倶楽部についての会員契約に基づき、会員資格保証金一六〇〇万円及びこれに対する据置期間満了日の翌日である平成一二年九月二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 被告は、ゴルフ場の経営等を目的とする会社であり、岐阜県瑞浪市土岐町所在のゴルフ場(以下、ゴルフ場施設を「本件ゴルフ場」といい、本件ゴルフ場における会員のクラブを「本件ゴルフ倶楽部」ということとする。)を経営している(争いがない)。
2 原告は、昭和六三年六月二八日、被告との間で、本件ゴルフ倶楽部に法人正会員として入会する旨の会員契約(会員番号ZA-一六〇一〇・以下「本件会員契約」という。)を締結し、被告に対し、会員資格保証金一六〇〇万円(証書発行日・昭和六三年六月二八日)を支払った(争いがない)。
3(一) 本件ゴルフ倶楽部の規約である「瑞陵ゴルフ倶楽部規約」(以下「本件会則」という。)第八条(1) には、「会員資格保証金は無利息にて会社(被告を指す。以下同じ。)が預かるものとし、会員資格取得の日から満一〇年間据置くものとする。その後会員は退会する場合に会員資格保証金の返還を請求することができる。」と定められており、第四条3には、「会社は会員が入会金を全額支払った後(分割支払者および会社が代位弁済を保証したローンによる支払者の場合はそれぞれの完済後)、会員資格保証金証書および使用損料領収書を発行するものとし、その発行日をもって、会員資格の取得日とする。但し、本ゴルフ場(本件ゴルフ場を指す。)開業の日以前に入会金を全額支払って手続きを完了した者は、本ゴルフ場開業日に資格を取得するものとする。」と規定されている(争いがない)。
(二) 本件ゴルフ場は、平成二年九月一日、開業したことから、原告は、同日、本件ゴルフ倶楽部の会員資格を取得した(争いがない)。
4(一) 本件会則第八条(3) には、「会社は天災地変その他不可抗力の事態が生じた場合、および会員資格保証金の返還により倶楽部の運営が阻害されるおそれがある場合には、理事会の承認を得て会員資格保証金の据置期間を一〇年を限度に延長することができる。」と定められている(甲第二号証)。
(二) 被告は、平成一〇年一二月一七日、取締役会において、本件会則第八条(3) に基づき、本件ゴルフ倶楽部の会員資格保証金の据置期間を一〇年間延長する旨の決議(以下「本件延長決議」という。)をした(乙第一号証)。
(三) 本件ゴルフ倶楽部の理事会は、平成一一年四月一三日、会員資格保証金の据置期間を一〇年間延長することについて了承した(乙第三号証)。
5 原告は、本訴状をもって、被告に対し、入会保証金一六〇〇万円の返還を求める意思表示をし、本訴状は、平成一二年四月三日、被告のもとに到達した(顕著な事実)。
二 争点
本件延長決議の効力の有無。
1 被告の主張
(一) 本件入会契約締結時、原告は、本件会則に従うことを約したところ、本件会則第八条(3) には、「会社は天災地変その他不可抗力の事態が生じた場合、および会員資格保証金の返還により倶楽部の運営が阻害されるおそれがある場合には、理事会の承認を得て会員資格保証金の据置期間を一〇年を限度に延長することができる。」と定められており、本件会則第八条(3) は、本件会員契約の内容となっている。
そして、被告は、平成一〇年一二月一七日、本件ゴルフ倶楽部の会員資格保証金の据置期間を一〇年間延長する旨の本件延長決議をし、本件ゴルフ倶楽部の理事会は、平成一一年四月一三日、会員資格保証金の据置期間を一〇年間延長することについて承認した。
(二) 被告は、本件ゴルフ場のほか国内三コースを擁するが、経常損益は、平成九年八月期において、<1>売上高(ゴルフ場収入)九八億五六四八万二三四八円、営業損失二七七七万三七三八円、<3>経常損失一八億二六七〇万七二九六円というものであり、その後、営業損益、経常損益は良化しているが、それでもなお、入会保証金返還請求に対する弁済原資となるべき平成一〇年度の可処分所得は、グループ全体で年間約七億円であった。
平成九年当時、被告らグループは、メインバンクである訴外株式会社日本債券信用銀行(以下「訴外銀行」という。)の協力を得て、据置期間の満了により返還請求がなされた会員資格保証金については包括的な期間延長措置をとらずに返還する方針をとっており、現に、訴外銀行からの融資も実行され、会員資格保証金の返還も行われていた。ところが、平成一〇年一二月一三日、訴外銀行は、金融再生法に基づく公的管理という事実上破綻の事態に陥り、これによって被告らグループに対する資金導入が全て凍結されるに至った。
一方、平成一一年当初時点での被告らグループに対する会員資格保証金返還請求は、請求件数九四九件、未払請求残高七二億一二四八万三〇〇〇円に達しており、仮に、会員資格保証金の預り高が合計約一五〇億円に達する本件ゴルフ場において全会員権につき返還請求権の行使がなされた場合、収益弁済はおよそ不可能であり、それゆえ、第三者への営業譲渡等の組織解体によってしか返還資金を捻出できない状況、すなわち、「会員資格保証金の返還により倶楽部の運営が阻害されるおそれ」が存在することが、明らかになった。
本件延長決議に関する理事会の承認決議においては、会員の利益を慮って、期間延長及び代償措置につき会員の過半数の同意を得ることを目標とする旨指示がなされたが、被告は、平成一二年三月末日現在、全会員件数一〇二四件のうち七九四件につき右同意を得ている。
本件延長決議は、本件会則第八条(3) が規定する要件を充足しているから、有効であり、入会保証金の据置期間は、延長されており、入会保証金の返還時期は、未だ到来していない。
2 原告の反論
本件会則第八条の規定は、入会保証金の据置期間を延長することができる場合を「天災、地変、その他不可抗力の事態が生じた場合」のほか、「会員資格保証金の返還により倶楽部の運営が阻害されるおそれがある場合」と定めているが、後者の場合にも、据置期間を延長することができるとすると、預託金返還債務を負う債務者である被告が、被告の意思により預託金返還債務の弁済期を自由に決定できることになり、結局、預託金を返還するか否かは、被告の意思のみによるということと実質的に同一であり、民法一三四条の規定の趣旨に照らして無効である。
そして、本件会則第八条に基づく入会保証金の据置期間の延長は、会員に認められた会員契約上の基本的な権利である入会保証金返還請求権に重要な変更を加えるものであるから、会員の個別的な承認を得ることが必要であるが、被告は、右据置期間の延長について原告の承認を得ていない。
したがって、被告は、個別の承諾をしていない原告に対して、右据置期間の延長の効力を主張することはできない。
第三争点に対する判断
一 甲第二号証、弁論の全趣旨によれば、本件会則には、<1>本件ゴルフ倶楽部に入会しようとする者は、被告に対し、別に定める入会申込書を提出し、理事会の承認を受けた後、被告に対し、入会金(会員資格保証金および使用損料)を払い込まねばならないこと(第四条1)、<2>本件ゴルフ倶楽部の会員は、名誉会員、特別会員、賛助会員、正会員、平日会員に区別されること(第五条)、<3>右各種会員は、被告に対して、所定の年会費及び利用料金を支払うこと等が義務付けられること(第六条)、<4>本件ゴルフ倶楽部には、理事長一名、常務理事一名、理事若干名を置き、役員全員をもって理事会を構成し(第一八条1)、役員はすべて名誉職とされ(第一八条2)、役員の任期は、二年とするが、再任を妨げないこと(第二五条)、<5>理事は、被告が選出し委嘱することとされ(第一九条)、理事長は理事会の議長となること(第二四条1)、<6>理事会は、理事長が招集することとされ(第二三条1)、決議ないし承認事項として、倶楽部運営に関する基本的事項、倶楽部運営に関する諸規則の制定および改廃、その他重要な事項があり(第二二条)、理事会の決議および承認は、出席理事(委任状を含む)の過半数をもって決し、可否同数のときは議長の決するところによること(第二三条2)、<7>会員の資格は、理事会および会社の承認を得て入会保証金返還請求権と共に他の者に譲渡することができるとされること(第一一条)等が定められているが、会員総会に関する規定が置かれていないことが認められる。
右認定事実によれば、本件ゴルフ倶楽部の会員には、本件ゴルフ倶楽部の運営に参加する機会が保証されておらず、本件ゴルフ倶楽部の構成員である会員による多数決の原則による意思決定が行われていないことや入会金(会員資格保証金および使用損料)のほか、年会費や利用料等は、被告により徴収され保管又は管理されていること等財産の管理も本件ゴルフ倶楽部が行っていないことが窺われること等団体としての主要な点が確立していないことに照らすと、本件契約締結当時、本件ゴルフ倶楽部は、いわゆる預託金会員制の組織であり、被告の意向に沿って運営され、ゴルフ場を経営していた被告と独立して権利義務の主体となるべき社団としての実体を有していなかったというべきであり、本件会則は、会員に対して団体法的な拘束力を生ずる社団の定款には該当せず、いわば一種の約款としてこれを承認して入会した会員と被告との間の契約上の権利義務の内容を構成していたものというべきである。
したがって、本件ゴルフ倶楽部の会員である原告は、本件会員契約を締結した当時、被告に対して、本件会則に従い、ゴルフ場を優先的に利用しうる権利及び年会費納入等の義務を有していたとともに、前記第二、一、3、(一)に認定したとおり、入会の際に支払った入会保証金を本件会則に定める据置期間の経過後に退会のうえ返還請求することができるとされていたのであって、右据置期間を延長することは、会員の契約上の権利に重大な変更を加えるものであるから、会員の個別的な承諾を得ることが必要であり、被告は、個別的な承諾を得ていない会員に対しては据置期間の延長の効力を主張することはできないものというべきである。
二 もっとも、前記第二、一、4、(一)に認定したとおり、本件会則第八条(3) には、「天災地変その他不可抗力の事態が生じた場合」及び「会員資格保証金の返還により本件ゴルフ倶楽部の運営が阻害されるおそれがある場合」は、被告は理事会の承認を得て、据置期間の期間延長をすることができる旨定められており、これに基づき、被告による据置期間の延長を内容とする本件延長決議及び本件ゴルフ倶楽部理事会によって、本件延長決議に承認する旨の決議がなされているところである。
しかしながら、被告の取締役会が被告の機関でしかなく、また、前記一に認定したところに照らせば、本件ゴルフ倶楽部理事会も被告の意向に沿うものでしかないことは否めないところであるから、「天災地変その他不可抗力の事態が生じた場合」ばかりではなく、単に「会員資格保証金の返還により本件ゴルフ倶楽部の運営が阻害されるおそれがある場合」にまで、被告が本件ゴルフ倶楽部理事会の承認を得て、入会保証金の据置期間を延長することができるということは、結局、入会保証金返還債務を負う債務者である被告の一方的な意思で据置期間を延長することができ、返還に応じるか否かは被告の意思次第という結果になりかねないものであり、前示のとおり、据置期間を延長することが会員の契約上の権利に重大な変更を加えるものであることに照らすと、本件会則第八条(3) は、いわゆる事情変更の原則の妥当するような極めて例外的な場合を規定したものと限定的に解釈しない限り無効となると解すべきである。
ところが、被告の主張するところは、結局のところ、会員資格保証金の預かり高が合計約一五〇億円に達する本件ゴルフ場において、全会員権につき返還請求権の行使がなされた場合(但し、被告は、全会員件数一〇二四件のうち七九四件について据置期間の延長について同意を得ている旨自陳するところである。)、メインバンクであった訴外銀行が金融再生法に基づく公的管理を受けたため返済資金の融資を受けられなくなり、また、本件ゴルフ場の収益からの弁済も不可能であるというものであるに過ぎず、結局、被告には返済能力がないというに等しいものであり、そもそも、本件ゴルフ場が開場されるに際して、預託金会員制が採用されたことにより、いずれ預託金返還債務の履行を迫られることがあることは法律上当然のことであり、据置期間の到来は所与の事実であって、被告は、その間に経済情勢の変動等を考慮しつつ、予め返済資金を確保するための措置を講じるべきものであって、その見込みが外れ、返済できないというに過ぎない債務者である被告側の事情は、いわゆる事情変更の原則の妥当するような例外的な場合に該当するとは到底言えない。
よって、被告は、原告に対して、被告取締役会による据置期間の延長の効力を主張することができない。
三 結論
以上のとおりで、被告の主張は、採用することはできず、原告の本件請求は、理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 片山憲一)